日本株、個人投資家が「一番儲かる時代」になる3つの理由
ここ数年、株高が続いているにもかかわらず、海外投資家やヘッジファンドの日本株からの撤退や規模縮小が相次いでいるという話が多方面から聞かれる。そして、その根源には、何やら伝統的なファイナンス理論への固執にともなうアクティブ投資の限界が見え隠れする。
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プロが買わない「割高銘柄」のほうが儲かる現実!

そもそもアクティブ投資の広義の定義は、「ベンチマークを上回るポートフォリオを構築、運用する投資法」ということになる。
ただ、この定義ではエンハンスド・パッシブ投資(指数の銘柄のウエイトを戦略的に調整することで超過リターンを目指すパッシブ投資)なども含まれてしまうため、狭義には「個々の企業のリサーチに基づく銘柄の選定によって」という文言を足したほうが正確だろう。
そして、このリサーチの根拠となるのがファンダメンタルズ分析だ。
こちらも、コンセプト的な側面から記述すれば、業界トレンド、損益・財務などを取材やモデル構築を通じて分析・予測することで、市場内の非効率性(市場ではまだ評価されていない情報、つまりは歪み)をとらえて収益を得るということになる。
さて、ここで問題となるのが、この非効率性、言い換えればアクティブ投資の源泉を、DCF法(キャッシュフロー割引法)やDDM(配当割引モデル)などの伝統的なファイナンス理論に基づいた価値に対する「株価の水準」に求めた点だ。
求めたというよりも、他に目安がなかったという方が正確かもしれない。そして、これが現在は諸悪の根源となっている。
具体的に数字を見ていきたい。今回は、分かりやすく足元の2018年初から現在までの期間に限定して分析を実施した。
まず、前提として年初来の割安株投資の効果を見てみる。
以下の図は、TOPIX500構成銘柄のうちで5人以上にカバーされている銘柄を母集団とし、PERの値の各分位ごと(5分位分類)の平均リターンを見たものだ。
出所:Datastream
予想PERによる銘柄の分類は2017年末時点、リターンは2018年1月第一営業日から直近までのリターンを用いている。事実としては、完全に「割高」銘柄の一人勝ちなのである。

アナリストが推奨する銘柄ほど「儲からない」…!

さらに、重要なのはここからだ。
次に視点を変えて、アナリスト推奨の投資効果を見てみたい。
出所:Datastream
アナリスト推奨が最も低いグループが最もパフォーマンスが良く、推奨が最も高いグループが最も悪いという笑えない事態だが、結果そのものよりも推奨が当たらない背景のほうが重要だ。
これを端的に理解するには、前二者を踏まえたうえで三段論法的にアナリストの推奨ごとのPERを見ればよい。明らかに、最も推奨の低い群のPERが高くなっているのが分かる。
出所:Datastream
話を総合すると、以下のようになる。
(1)2018年は、年初から割高銘柄のリターンが突出して高い状況となっている。
(2)アナリストの推奨効果は、推奨が最も低い銘柄のパフォーマンスが最もよい。
(3)推奨ごとのPERを見てみると、推奨が最も低い群の銘柄のPERが突出して高い。
つまり、アナリストはいまだに現実を反映しない古代のファイナンス理論を信奉して割安な銘柄を買い推奨、割高な銘柄を売り推奨としているケースが多く、往復ビンタを食らっているのが事実だ。
無論、この推奨はコンセンサス(市場平均)であり、中には正しくトレンドを捉えている優秀なアナリストも少数派ながら存在していることを付け加えておく。
そして、この事態の最大の被害者は、日本語が不得意で、彼らの情報を参考にして投資判断をして損失を被ったアクティブ系の海外投資家である。
もちろん、最終的には自己責任だが、変化を受け入れずに過去の遺物に固執し、結果として日本株は儲からないという印象を与えて海外の長期アクティブ資金の逃避を助長するのはいかがなものか。

日本株のアクティブ投資が「絶滅危惧種」と化す

少なくとも、この結果を見るかぎり、個人投資家は機関投資家に対して分析や情報の質と量において劣後しているなどとネガティブになる必要はまったくないことがおわかりいただけるだろう。
妙なノイズが聞こえてこない分だけ、個人投資家の方が有利だと前向きに考えるべきだともいえる。
日本株のアクティブ投資の衰退は、伝統的なファイナンス理論の呪縛から逃れられないアナリストによるところが大きい。それを捨てられないかぎり、日本株のアクティブ投資は絶滅への一途を辿るだろう。
さすがにこれでは単なるアナリストへの誹謗中傷とも取られかねない(私見を一切排した定量分析の結果を述べているだけだが)ので、最後に擁護の意味も含めて唯一アナリストの推奨とリターンへの期待が一致しうる戦術を紹介しておきたい。アナリストが買い推奨しており、かつ割高な銘柄への投資である。
DDMやDCFは基本的に割安な銘柄を抽出して推奨するものだが、現状なんらかの好材料から買われて割高化しており、それでもなおアナリストに強く推奨されるような銘柄は、よほど強いモメンタム性を有しているか、将来に個別具体的な好材料が存在するケースが多い。
事実、割高銘柄をアナリスト推奨別にパフォーマンスを計測してみると、過去5年程度の長期で見てもその効果の差は歴然だ。
出所:Datastream
推奨の高い割安株という、彼らが最も力を発揮すべき銘柄群のパフォーマンスが最悪なのは皮肉な話だが、割高株の中から定性的に質の高いものを選別することには長けているようだ。
ファイナンス理論から逸脱してでも推奨したい何かがある、ということだろう。
参考までに、次ページに同条件の銘柄の一覧を掲載しておく。